ブックタイトルtakenakadaikudougukan-news_Vol41

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takenakadaikudougukan-news_Vol41

COLUMN菅山寺の森(滋賀県長浜市) 竹中大工道具館茶室露地六甲山の木のはなし三浦豊(森の案内人)京都市内で生まれ育った僕は、自分が住む街とは異なる神戸という街に憧れを持っていたものの、なかなかお近づきになる機会を持つことができずにいました。そんな中、たまの機会で神戸へ行った時に感じるさわやかな感覚は一体何なのだろうと不思議に思っていました。年月が経って神戸に住む友人もでき何度か足を運ぶ中、そのさわやかな感覚の謎が分かりました。それは風と地形でした。日本全国には海に面している街は無数にありますが、神戸で感じる風には、他の街では感じない分厚い感触があります。その風の感触の大きな要因が、街から急勾配で屹きつりつ立している六甲山と知ってからは、なかなかヒューマンスケールでは括ることができない雄大な六甲山を、僕は畏怖の念と憧れで眺めるようになりました。六甲山は、その山容にふさわしい歴史と植生を有しています。とくに植生に関しては、まるで日本列島の植生が凝縮されたようなにぎやかさが山いっぱいに広がっていることを強く感じます。麓には粗あらかし樫や楠くすのきをはじめとした冬でも葉を茂らせる常緑広葉樹が枝葉を広げ、地面の近くには、南西諸島の島々にもたくさん生えている棕しゅろ櫚や青木が生い茂っています。急斜面には欅けやきや椋むくの木き 、伊呂波紅葉が根を張りながら枝を伸ばし、秋になると錦秋の世界を彩ります。落ち葉がたまりやすい平坦な所には杉や檜の植林が広がっている所もあります。これだけでも見所は十分ですが、六甲山が素晴らしいのは、さらに異なる植生が山の上へ登るに伴って広がっていることです。尾根付近の岩場には、樅もみや栂つがが岩盤を掴むように力強い根を広げていて、山頂近くには?ぶなも自生しています。古来、日本の寒冷な地方の山岳は?の原生林に覆われていましたが、戦後復興の中、大半が皆伐されてしまいました。しかし六甲山では部分的ではあるものの?が生き残ることができました。これは意義深いことだと思います。今年の初春に新神戸駅から布引の滝へ至る森と竹中大工道具館の庭園の案内をさせてもらいました。参加者さん達には六甲山の豊かな森林の一端を感じていただけたと思っています。僕が感じたツアー中の大きな見所の一つは、大村都学芸員が明治時代の六甲山の写真をみんなに見せてくれた時でした。そこに写っていたセピア色の六甲山は、まるで異国の乾燥地帯みたいなハゲ山だったのです。とくに明治時代、六甲山の森林は港湾都市として急速に発展した神戸市内の薪炭調達のために伐られました。そのような状況から現在の森林に覆われた六甲山への変貌には心底驚かされます。温暖で雨量の多い日本の気候と、人々の自然への畏敬の念、この2つが融合すると、雄大な六甲山の景観を変貌させるくらいの力を持っていることを僕は折に触れて感じています。令和には、どのような姿の六甲山になるのでしょうか。興味と関心、そして何より愛情を持ちながら、みんなで向き合っていければと願っています。9